近親者固有の慰謝料請求権は法律で定められている

慰謝料は、多大な精神的苦痛を受けた場合に請求できるものです。配偶者やお子様などをなくされた場合、遺族の精神的苦痛も非常に大きなものとなりますので、民法では近親者に慰謝料請求権を認めています。
近親者って…?具体的に誰が請求できるの?
苦痛をうけた身内であれば誰でも請求できるという訳ではありません。民法で「父母」「配偶者」「子」について慰謝料請求権が認められています。基本的にはこれらの立場にある人が対象となりますが、特別な身分関係が存在した場合には父母、配偶者、子でなくても認められる場合があります。
民法711条(近親者に対する損害の賠償) 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者および子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。近親者固有の慰謝料はいくらもらえるの?
自賠責基準によって支払われるか、弁護士基準によって支払われるかによって、金額は大きく異なります。
自賠責保険の場合
自賠責保険において本人の死亡事故慰謝料は、400万円(令和2年4月1日より前の事故については350万円)とされます。そのほかにご家族等の近親者も固有の慰謝料請求権が認められ、その金額は請求する遺族が1人であれば550万円、2人なら650万円、3人以上であれば750万円とされています。また、遺族が被害者に扶養されていた場合200万円が加算されます。
例えば慰謝料を請求する遺族が2人いて、扶養されていた場合は以下の計算のように1200万円となります。
400万円(本人の分)+650万円(遺族2人分)+200万円(扶養の加算)=1250万円
弁護士基準の場合
弁護士基準の場合は、本人の分を含めて支払われるのが一般的です。被害者が一家の支柱となる立場であった場合には2800万円が基準とされます。また被害者が母親、配偶者であれば2500万円、その他の立場であれば2000万円~2500万円です。
「父母」「配偶者」「子」以外でも認められることがある特別な関係の近親者って…?

民法では「父母」「配偶者」「子」について固有の慰謝料請求権を認めていますが、それ以外の身内にはどんなに近しい存在でも認められないのでしょうか。
基本的には、父母・配偶者・子が対象となりますが、唯一の身内が兄弟である場合や「被害者の夫の妹」のような一般的には少し遠い存在であったとしても民法711条に定められた立場の人と「実質的に同視」できるであろう身分関係があり「被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者」について慰謝料請求権があるものと判断(昭和49年12月17日最判)されています。
この「被害者の夫の妹」のケースでは、その妹に元々障害があり、長年同居して被害者によって世話を受けており、本来であればそれ以降も庇護のもと生活することを期待できたはずなのに、それが受けられなくなったことの精神的苦痛は甚大であるとして慰謝料を請求しうるとされています。
内縁の配偶者の場合は?
では内縁の配偶者の場合、どうでしょうか。内縁関係であると相続人でないので、何も請求できないのではないかと思われる方もいらっしゃると思います。
ですが、前述の障害をもった妹のケースで、父母・配偶者・子に同視すべき身分関係があり、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者が固有の慰謝料請求をしうるとされました。
内縁の配偶者についても裁判例で固有の慰謝料を認めるものがあります。東京地裁平成27年5月19日判決は、約29年の間、ほぼ住居を同一として生活し,同じ生計で生活をしており、親族や勤務先も夫婦と同じように接してきた事案において、内縁の配偶者に固有の慰謝料として500万円の慰謝料を認めました。
したがって、内縁の配偶者にも固有の慰謝料は認められる場合があります。ただし、事故当時同居していたからといって全て内縁関係として補償されるわけではなく、裁判例のように、①同居期間や、②同一家計になっているか、③親族や勤務先等対外的社会的に夫婦として扱われていたかなどが考慮され判断されます。
近親者固有の慰謝料は被害者が死亡した場合しかもらえないの…?
民法の条文上では「生命を侵害」したものとされています。基本的には死亡してしまった場合に請求できるものではあるのですが、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」ほどの精神的苦痛を近親者が受けた場合には、被害者が死亡していなかった場合にも近親者固有の慰謝料が認められることがあります。ただし極めて重症を負ってしまったなど認められるケースはある程度限られてきます。