交通事故で「むちうち」になったら、相手にどのくらいの慰謝料を請求できるのでしょうか?

慰謝料には「相場」の金額があります。またむちうちの重傷度によっても慰謝料額が大きく変わってくるので、正しい知識を持っておきましょう。

今回は「通院3ヶ月」「通院6ヶ月」など、パターン別にむちうちの慰謝料相場を解説します。交通事故でつらい症状にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。

むちうちとは

交通事故が発生すると、多くの被害者の方が「むちうち」になってしまいます。

むちうちとは、首の骨である「頸椎」の疾患を意味します。

頸椎の中には人間の感覚や運動を司る「神経」が通っています。ところが追突事故などによって急な衝撃を受けると、首の骨に負荷がかかります。

すると頸椎がダメージを受け、後にむちうちのさまざまな症状が出てしまうのです。

「むちうち」は、こうした頸椎の損傷によって生じる症状の総称であり、医学的な診断名ではありません。診断書を見ても「むちうち」とは記載されないので注意しましょう。

診断書には、通常以下のような診断名が書かれます。

  • 頸椎捻挫
  • 頸椎挫傷
  • 外傷性頸部症候群
  • バレ・リュー症候群
  • 脳髄液減少症(低髄液圧症候群)

特に多いのが「頸椎捻挫」や「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」です。診断書にこうした傷病名が記載されていたら「むちうちになったのだ」と理解しましょう。

むち打ちの症状

むち打ちの典型的な症状は、以下のようなものです。

  • 首や背中の痛み
  • 首を動かしにくい
  • 背中や肩がこる
  • 腕や手のしびれ
  • めまい、耳鳴り
  • 吐き気、食欲不振
  • 倦怠感
  • 頭痛、頭重感

交通事故後、こういった症状が発生したら「むちうち」を疑ってみてください。

むちうちの症状は後日に発生するケースも

交通事故でむちうちになる場合、事故現場ですぐに痛みやしびれ、こりなどの症状が顕れるとは限りません。現場では無症状でも、翌日や翌々日以降に違和感が発生するケースが多々あります。

事故現場では「ケガをしなかった」と考える被害者が多数いますが、実際にはむちうちになっている可能性があるので注意してください。

事故で首のあたりに強い衝撃を受けた場合には、すぐに「整形外科」を受診するようお勧めします。 またむちうちになっても病院に行かなければ慰謝料は払われません。もしも事故当日は病院に行かなかったとしても、痛みやしびれ、こりなどの症状が顕れたら、すぐに病院へ行ってください。

むちうちの慰謝料は2種類

交通事故でむちうちになったら、加害者へ慰謝料を請求できます。

むちうちの慰謝料には以下の2種類があります。

入通院慰謝料

入通院慰謝料は「被害者がけがをしたときに発生する慰謝料」。交通事故でけがをすると、被害者は大きな恐怖や痛みなどを感じるでしょう。そこで、症状の程度に応じて「入通院慰謝料」が支払われます。入通院慰謝料を「傷害慰謝料」ともいいます。

入通院慰謝料は、むちうちで「入通院した場合」に支払ってもらえます。金額は、入通院した期間に比例して高額になります。入通院期間が長くなると、慰謝料が高額になる計算方法と考えましょう。

反対に、むちうちになっても、病院へ行かなければ慰謝料を払ってもらえないので注意してください。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害が残ったときに支払われる慰謝料です。

後遺障害が残ったら、日常生活や仕事で支障が生じるので、被害者としては大きな精神的苦痛を感じるでしょう。そこで入通院慰謝料とは別に「後遺障害慰謝料」が支払われます。

交通事故で後遺障害慰謝料を受け取るには「後遺障害認定」を受けなければなりません。治療終了時に痛みやしびれなどが残っても、将来にわたって症状が残存する「後遺障害」として認定されなければ慰謝料は支払われないので注意しましょう。

また後遺障害には「等級」があり、等級が高くなるほど慰謝料は高額になります。等級は14段階で、1級がもっとも重症のケース、14級がもっとも軽症のケースです。

むちうちの場合には12級または14級が認定される事例が多くなっています。

入通院慰謝料の相場

むちうちになったとき、入通院慰謝料の相場はどのくらいになるのかみてみましょう。

入通院慰謝料の計算方法

交通事故の慰謝料計算基準には3種類があります。

自賠責基準

1つは自賠責基準。これは、自賠責保険が保険金を計算するときに適用する基準です。

金額的には3つの基準の中でもっとも低額になります。

弁護士基準

2つ目は弁護士基準。これは、弁護士や裁判所が用いる法的な基準です。弁護士が示談交渉や訴訟を起こすとき、あるいは裁判所が判決を下すときなどに適用されます。3つの基準の中でもっとも高額です。

任意保険基準

3つ目は任意保険基準。任意保険会社が被害者と示談交渉するときに適用されます。金額的には自賠責基準に近くなります。

以下でそれぞれの基準による入通院慰謝料の計算方法をみていきましょう。

自賠責基準での入通院慰謝料の計算方法

自賠責基準の場合、入通院慰謝料は以下の計算式で算定します。

入通院慰謝料=治療期間に対応する日数×4,300円

ただし2020年3月31日までに発生した交通事故の場合には、1日あたりの慰謝料額が4,200円となります。

また「治療期間に対応する日数」としては、以下のいずれか低い方の金額を適用します。

治療にかかった期間の日数

たとえば4月1日から6月30日まで3ヶ月間通院したら、30+31+30=91日間となります。

実際に治療を受けた日数×2

たとえば4月1日から6月30日まで通院したけれど実際に通院した日数が40日であれば、40日×2=80日となります。

上記の例のように4月1日から6月30日まで通院した場合、実際に通院した日数が46日以上であれば「91日間」を適用します。

45日以下であれば「実通院日数×2」が適用されると考えましょう。

自賠責基準の場合、通院日数が少なくなると慰謝料が減額される可能性があるといえます。

弁護士基準での入通院慰謝料の計算方法

弁護士基準の場合、入通院慰謝料は「軽傷の場合」か「通常程度のけがの場合」かで異なります。

むちうちの場合「MRI」や「レントゲン」などの画像撮影で外傷性の異常がなく、患者が「痛い、しびれる」などの自覚症状を訴えているだけなら「軽傷」扱いとなって慰謝料が減額されます。

「MRI」や「レントゲン」「CT」などで外傷性の異常を確認できる場合には「通常程度のけが」扱いとなります。

以下で入通院期間と慰謝料の相場金額の表を示すので、参考にしてみてください。

なお、裁判においては、症状固定に至るまでの入通院慰謝料が争点となりますので、実際の入通院期間と、慰謝料計算の際に使われる入通院期間は一致するものではありません。

【軽傷の入通院慰謝料】

入院 1ヶ月2ヶ月3ヶ月4ヶ月5ヶ月6ヶ月7ヶ月8ヶ月9ヶ月10ヶ月
通院356692116135152165176186195
1ヶ月195283106128145160171182190199
2ヶ月366997118138153166177186194201
3ヶ月5383109128146159172181190196202
4ヶ月67955119136152165176185192197203
5ヶ月79105127142158169180187193198204
6ヶ月89113133148162173182188194199205
7ヶ月97119139152166175183189195200206
8ヶ月103125143156168176184190196201207
9ヶ月109129147158169177185191197202208
10ヶ月113133149159170178186192198203209
【軽傷の入通院慰謝料】

たとえば通院1ヶ月なら19万円、通院4ヶ月なら67万円となります。

【通常程度のけがの入通院慰謝料】

入院 1ヶ月2ヶ月3ヶ月4ヶ月5ヶ月6ヶ月7ヶ月8ヶ月9ヶ月10ヶ月
通院53101145184217244266284297306
1ヶ月2877122162199228252274291303311
2ヶ月5298139177210236260281297308315
3ヶ月73115154188218244267287302312319
4ヶ月90130165196226251273292306326323
5ヶ月105141173204233257278296310320325
6ヶ月116149181211239262282300314322327
7ヶ月124157188217244266286301316324329
8ヶ月132164194222248270290306318326331
9ヶ月139170199226252274292308320328333
10ヶ月145175203230256276294310322330335
【通常程度のけがの入通院慰謝料】

たとえば通院1ヶ月なら28万円、通院4ヶ月なら90万円となります。

任意保険基準での入通院慰謝料の相場

任意保険基準は、各任意保険会社がそれぞれの裁量で設定しているので、統一された基準はありません。一般的には「自賠責基準と同様か、それより少し多い程度」となります。

弁護士基準よりは随分と低くなります。

通院3ヶ月の入通院慰謝料 ケーススタディ

むちうちで症状固定まで通院3ヶ月(90日)となった場合、具体的にどのくらいの入通院慰謝料が払われるのでしょうか?

自賠責基準の場合

期間中に45日以上通院すると、4,300円×90日=387,000円となります。

40日通院の場合には、4,300円×40日×2=344,000円です。

30日通院の場合、4,300円×30日×2=258,000円となります。

このように自賠責基準では、期間中の通院日数が少なくなると入通院慰謝料を減額されてしまうので、注意しましょう。適切な金額の慰謝料を受け取るためには、通院が必要なだけ、きちんと通院をする必要があります。

弁護士基準の場合

MRIなどに外傷性の異常があって「通常程度のけが」となる場合…73万円程度

MRIなどで外傷性の異常が見られず「軽傷」となる場合…53万円程度

通院6ヶ月の入通院慰謝料 ケーススタディ

自賠責基準の場合

期間中に90日以上通院すると、4,300円×180日=774,000円

実際に通院したのが50日だった場合、4,300円×50日×2=430,000円

実際に通院したのが30日だった場合、4,300円×30日×2=258,000円

弁護士基準の場合

MRIなどに異常があって「通常程度のけが」となる場合…116万円程度

MRIなどで異常が見られず「軽傷」となる場合…89万円程度

任意保険会社から提示された慰謝料の金額が「弁護士基準」より低いなら、弁護士に示談交渉を依頼すると慰謝料を増額できる可能性が高いといえます。

自分で対応すると損をしてしまうので、できるだけ早めに弁護士に相談してみましょう。

後遺障害慰謝料が認められるケース

むちうちでも「後遺障害」として認定を受けられれば、「後遺障害慰謝料」の支払を受けられます。後遺障害慰謝料は入通院慰謝料とは別に支払われるので、後遺障害認定を受けられたら慰謝料額が大幅に増額されると考えましょう。

むちうちで支払われる後遺障害慰謝料の金額は、認定された等級によって異なります。多くのケースでは12級または14級に認定されるので、それぞれの相場の金額をみてみましょう。

12級の後遺障害慰謝料

12級の場合の後遺障害慰謝料額は、以下の通りです。

  • 自賠責基準…93万円
  • 弁護士基準…290万円程度
  • 任意保険基準…100万円程度となる会社が多いでしょう。

14級の後遺障害慰謝料

14級の場合の後遺障害慰謝料額は、以下の通りです。

  • 自賠責基準…32万円
  • 弁護士基準…110万円
  • 任意保険会社基準…40万円程度となる会社が多いでしょう。

むちうちで12級となるか14級となるかの違い

むちうちの後遺障害が12級となるか14級となるか、その違いは何なのでしょうか?

12級になる場合

12級が認定されるのは、MRIやレントゲンなどの外傷性を示す画像診断によって後遺症を立証できる場合です。MRIなどに外傷性の異常な箇所が写っていて自覚症状と一致していたら12級が認定される可能性が高まります。

14級になる場合

14級が認定されるのは、MRIやレントゲンなどの画像によっては外傷性の異常を確認できないけれど、症状が存在すると「推認できる場合」です。

患者の訴える自覚症状の内容、治療経過、事故態様などを総合的に考慮して、後遺障害が残っていると考えられる場合に14級が認定されることがあります。

ただ、単に「痛い」「しびれる」などの症状を訴えるだけでは14級も認定されない場合も多いので、注意が必要です。

できるだけ適正な慰謝料を獲得する方法

むちうちでできるだけ適正な慰謝料を獲得するには、以下のように対応しましょう。

しっかり通院する

入通院慰謝料は、医師の指示がある限り、基本的には、通院期間に比例して高くなります。

忙しくても、「完治」または「症状固定」するまでしっかり通院を継続しましょう。

基本的には、入通院慰謝料と仕事は関係がありません。仕事を休んだからといって、慰謝料は増えません。仕事をしたとしても慰謝料は減りません。また、むちうちで会社を休んだとしても、休業補償が満額出るとは限りません。

したがって、仕事を休まずに行ける整形外科で、しっかりと通院をすることが重要となります。

後遺障害認定を受ける

後遺障害が残ったら、必ず後遺障害等級の認定を受けましょう。後遺障害等級を獲得して後遺障害慰謝料が払われれば一気に慰謝料が増額されます。

弁護士に示談交渉を依頼する

弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士基準が適用されて慰謝料が大幅に上がる場合が多いです。特に後遺障害が残ってしまった場合は、適正な金額の慰謝料を払ってもらうには、弁護士への依頼が必須といえるでしょう。

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