お客様が交通事故の被害者である場合、交通事故の怪我の治療費は加害者に支払ってもらうことができます。
しかし、加害者から治療費を支払ってもらう前に、まずお客様が治療費を立て替えなければいけないことがあります。例えば、救急車で病院に運ばれた場合、その時点では加害者の名前や保険会社が分からないため、お客様がご自身で治療費を立て替えなければいけません。
それではまず、お客様が交通事故の治療費を支払う際に、健康保険を使うことはできるのでしょうか?
交通事故の治療に健康保険を使える場合と使えない場合について解説します。
交通事故の治療に健康保険を使うことはできる
交通事故によって怪我を負った場合でも、健康保険を使うことができます。
健康保険を使った場合、医療費は原則3割負担となります。交通事故で怪我をした場合も、健康保険を使えば治療費の負担は3割となります。ただし、交通事故の治療の場合は、通常とは手続きが異なります。健康保険を使う際には、必ず窓口で「交通事故の怪我の治療です」と伝えて、必要書類を確認しましょう。
なお、「健康保険」と一言でいっても、いくつかの種類があります。大きく分けると、「国民健康保険」「企業の健康保険」「共済組合」の3種類です。
「企業の健康保険」は、会社員(サラリーマン)を対象とした健康保険です。企業で働く従業員やそのご家族が加入しています。
「共済組合」は、公務員やそのご家族等が加入する保険です。
いずれにも加入していない場合は、国民健康保険(国保)の対象となります。自営業やフリーランス、スポーツ選手やアーティスト、学生、無職の方は、国民健康保険に加入します。
上記のいずれかの健康保険に加入していれば、交通事故で怪我をした際に、健康保険を使って治療を受けることができます。
交通事故の治療に健康保険が使えない場合
交通事故で怪我をした場合は健康保険を使えることが一般的ですが、下記のケースに限っては、健康保険を使うことができません。
例外① 仕事中に交通事故に遭ったとき
仕事中に交通事故に遭った場合は、労災保険の対象となります。業務中の交通事故に限らず、通勤途中の事故であっても労災保険が給付されます。
厚生労働省の方針では、「仕事中の交通事故については、まずは労災保険を適用し、労災保険が受けられない場合には健康保険の対象とする」と定められています。つまり、仕事中の事故については労災保険を使うことが原則であり、健康保険を使うことはできません。
以上の理由により、仕事中の事故については、原則として健康保険を使うことができません。
「仕事中の事故は労災、それ以外は健康保険」と覚えておきましょう。
例外② 保険適用外の治療を受けるとき
病院での治療には様々な方針があり、全てに健康保険が適用されるわけではありません。保険適用外の治療を受ける場合は、当然のことながら、健康保険は使用できません。
特に、接骨院や整骨院で治療を受ける際には注意しましょう。
接骨院や整骨院での治療は、一部については健康保険が適用されますが、それ以外は保険適用外となります。どこからどこまでが健康保険が適用されて、どこからが保険適用外になるのかについて、最初にきちんと確認しておきましょう。
なお、保険適用外の治療を受ける際には、医師が「保険適用外の治療になりますが、どうしますか?」と尋ねてくれることがあります。このように尋ねられた場合は、どのように対応したら良いのでしょうか?
健康保険が適用されない治療であっても、「必要性」と「正当性」が認められれば、事故の加害者に治療費を請求することができます。このため、最終的にはご自身が負担する必要はありません。
ただし、「必要性」と「正当性」が認められるかは、一般の方にとっては判断の難しい事柄です。主治医に相談しても、医師は法律の専門家ではありませんので、明確な回答を得ることはできません。このため、保険適用外の治療を受ける際には、あらかじめ保険会社(自動車保険会社)の担当者に確認しておきましょう。保険会社がきちんと対応してくれない場合は、交通事故を弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
健康保険を使うメリットとデメリット
交通事故で怪我を負った場合、健康保険を使って治療を受けることができるのに、交通事故の被害者の方の中には、健康保険を使う人もいますし、使わない人もいます。
それでは、どうして健康保険を使う人と使わない人がいるのでしょうか?健康保険を使うとどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
交通事故の治療に健康保険を使うことのメリットとデメリットを法的観点から解説します。
健康保険を使うメリット
まず、健康保険を使って治療することのメリットを見ていきましょう。
① 立替金を節約できる
交通事故の被害者は、損害の全額を加害者に請求することができます。加害者が自動車保険に入っている場合は、保険会社が代わりとなって賠償金を支払ってくれます。よって、病院で治療を受けた場合、その治療費は加害者(保険会社)に請求することができます。
しかし、加害者が支払ってくれるまでの間、一時的に被害者がご自身で治療費を立て替えなければいけないことがあります。例えば、救急車で搬送されて応急手当を受ける場合、まだその段階では相手方の保険会社が分からないため、ご自身やご家族が治療費を立て替えなければいけません。
また、保険会社と治療方針について揉めている場合は、ご自身が治療費を立て替えなければいけません。ひき逃げや当て逃げのように加害者が分からない場合も、ご自身で治療費を立て替えなければいけないおそれがあります。
これらの場合のように、一時的とはいえ、ご自身のお財布から治療費を支払わなければいけないことがあります。健康保険を使って治療を受けると、ご自身が立て替えるお金を節約することができます。
② 自己負担となるリスクの範囲を狭めることができる
交通事故の全面的な責任が加害者にある場合は、加害者が治療費の全額を負担することになります。このため、健康保険を使っても使わなくても、最終的には治療費の全額を加害者が支払ってくれるため、被害者の負担は代わりません。
しかし、交通事故の責任が加害者に100%あると認められるかどうかは、示談交渉が成立するまで分かりません。
例えば、加害者が脇見運転をしていた場合には、加害者の不注意が大きいと認められるものの、もしお客様が法定速度を上回るスピードで運転していたのであれば、お客様にも過失(不注意)があると認められます。
どれくらいの過失が認められるかはケースバイケースで異なりますが、双方に過失(不注意)があると認められる場合は、「Aさんの過失が80%、Bさんの過失が20%」というように認定されます。このように、事故の責任が両方にあると認められることは、決して珍しいことではありません。
少しでもお客様に過失(不注意)が認められると、加害者から受け取る賠償金が減額されます。
例えば、下記のケースを見てください。
お客様の治療費:200万円
お客様の過失:20%
加害者の過失:80%
このような場合は、下記の計算により、加害者から受け取る賠償金は、総額160万円となります。
200万円(損害額)×80%(加害者の過失)=160万円(相手方から受け取る賠償金)
過失相殺として減額された40万円は、お客様が負担すべき金額となります。もしもお客様が任意の自動車保険に入っている場合は、そのプランの内容によっては、この40万円を保険でカバーしてもらうことができます。この場合、お客様のお財布から40万円をお支払いする必要はありません。しかし、自動車保険がカバーしてくれない場合は、お客様ご自身の負担となります。
このように、交通事故の治療費は、必ずしも全額を加害者に請求できるとは限りません。
過失割合によっては、お客様が治療費の一部を自己負担しなければいけないおそれがあります。健康保険を使って治療を受けていれば、治療費の総額が減少しますので、最終的に自己負担となるリスクの範囲を狭めることができます。
③ 治療を打ち切られるリスクが低くなる
自動車保険には、「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。一般的に、被害者が病院で治療を受けた場合、まず自賠責保険によって治療費がカバーされます。自賠責保険の上限は治療費以外の通院交通費、慰謝料、休業損害も含めて120万円と決まっているため、治療費等の計算が120万円を超えた場合は、任意保険会社がそれ以降の治療費をカバーすることになります。
つまり、治療費等が120万円以上になると、その治療費は任意保険会社の負担となります。このため、治療費等が120万円を超えると、保険会社が「そろそろ治療を終了しませんか」と言ってくることがあります。悪質な保険会社の場合は、「来月以降は治療費を支払いません」と突然通告してくることもあります。特に、むちうちで数ヶ月以上通院している場合は、保険会社が強硬な姿勢で治療を打ち切ることが珍しくありません。
「軽い怪我だから120万円もかからないだろう」と思っている方は、注意が必要です。自賠責の上限の計算には、治療費以外の通院交通費、慰謝料、休業損害等も含まれます。このため、怪我が軽い場合であっても、自賠責の上限を超える可能性があります。治療費が高い病院にいけば、それだけ早く自賠責保険金の上限枠120万円がうまっていきます。
治療の打切りのリスクを少しでも低くするためには、治療費を抑えることが一つの方法です。健康保険を適用して治療費を抑えておけば、保険会社から治療費の打ち切りを宣告されるリスクが低くなり、打切りのタイミングも遅くなる可能性があります。
健康保険を使うデメリット
それでは、健康保険を使うことにはどのようなデメリットがあるのでしょうか?
交通事故で健康保険を使うためには、複数の書類が必要となるため、手続きが複雑になります。
カゼをひいて病院で診察を受ける場合は、病院の窓口で保険証を提示するだけで手続きは終了します。その他の書類は必要ありません。しかし、交通事故の治療では、健康保険を使うために多くの書類が必要となります。どのような書類が必要となるかは、お客様の加入している健康保険によって異なりますが、例えばお客様が国民健康保険に加入している場合は、下記の資料が必要となります。
- 保険証
- 印鑑
- 交通事故証明書(又は人身事故証明書入手不能理由書)
- 第三者行為による傷病届
- 事故発生状況報告書
- 同意書
このように、交通事故の治療で健康保険を使う場合は、通常の治療と比べて手続きが複雑となります。交通事故の治療で健康保険を使う際には、必ず窓口で「交通事故による怪我の治療です」と伝えて、必要書類を確認しましょう。
また、これまで説明したとおり、健康保険を使うと治療費の総額が安くなります。これは、一方では、病院の収入が減っていることを示しています。したがって、病院によっては、健康保険を使うのであれば、他の病院にいってほしいと、言われることがあります。とくに、過失が10:0で、全額を加害者側の保険会社が負担するべき事案で、突然、健康保険を使いたいと伝えると、病院からすれば「どうして?」と疑問を持たれることもあります。
交通事故でお悩みの方はお気軽にご相談ください
交通事故の治療に健康保険を使うことのメリットとデメリットを解説しましたが、交通事故の治療に健康保険を使うことにはメリットとデメリットがありますので、お客様の事情に応じてそのバランスを考慮することが重要です。
健康保険を使うべきかどうかお悩みの方は、お気軽に当事務所にご相談ください。
当事務所では、交通事故の無料相談をおこなっております。費用はかかりませんので、お気軽にご利用ください。交通事故のご相談は、お問い合わせフォームから申し込んでいただくことが可能です。お電話でのご予約も受け付けております。交通事故を弁護士に依頼するかどうか迷っている方も、お気軽に無料相談をご利用ください。
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