企業や団体に属すること無く、個人でビジネスを営んでいる人のことを「フリーランス」や「個人事業主」といいます。プログラマーやWEBデザイナー、ライターや翻訳家、漫画家など、様々な職種の人がフリーランスとして活躍しています。

フリーランスは自由に働くことができるというメリットがある一方で、いざというときに会社に守ってもらえないというデメリットがあります。サラリーマンが交通事故にあった場合は、有給休暇や雇用保険の制度を利用することができますし、同僚や部下に頼んで仕事を代わってもらうこともできます。しかし、フリーランスや個人事業主の場合は、代わりの人材を見つけることが難しく、お仕事を休まざるをえないケースが多いという現状があります。

しかし、心配はありません。フリーランスの方が交通事故にあってお仕事に支障が出た場合にも、加害者に対して損害賠償を請求できます。それでは、具体的にどれくらいの金額を受け取ることができるのでしょうか?

今回は、フリーランスや個人事業主のお仕事に支障が出た場合について、どのような休業損害(交通事故のお怪我の治療のために収入が減ることの補償)を受け取ることができるのかについてQ&A形式で解説します。

Q.1. 開業届について

現在フリーのカメラマンとして働いています。事故で1ヶ月入院したため、その間は全く収入がありませんでした。税務署に「開業届」を出していないのですが、休業損害を請求することはできるのでしょうか?

A1. 開業届の有無に関わらず請求できます。

フリーランスや個人事業主としてビジネスをする場合、ビジネスを開始した日から1ヶ月以内に税務署に「開業届」を出さなければいけません。しかし、開業届を出さなくても罰則が無いため、開業届を出さずにフリーランスとして仕事をしている人は少なくありません。

開業届を出していない人であっても、休業損害を請求することは可能です。交通事故の休業損害が認められるかどうかは、「事故によって収入が減ったかどうか」によって決まります。つまり、開業届を出しているかいないかに関わらず、「事故の影響で収入が減った」ということを証明できれば、休業損害を請求できます。

Q2. 休業損害の計算方法

個人で雑貨屋を営んでいますが、月ごとに売り上げが大幅に変動しており、月々の収入が安定していません。休業損害はどうやって計算するのでしょうか?

A2. 前年度の確定申告書に基づいて算定します。

個人でビジネスを営んでいる場合、月ごとの収入が安定しないケースが多いため、「事故の前年度の確定申告書」に基づいて休業損害を計算します。前年度の確定申告書の売り上げから経費を差し引いた金額が、基本所得となります。一年間の平均所得に基づいて計算するため、月ごとに売り上げが変動する場合であっても、お客様にとって不利になるおそれはありません。

これに対して、サラリーマンやOLは月ごとの収入の変動が少ないため、事故にあう前の直近3ヶ月分の給与明細をもとに休業損害を計算します。

Q3. 年度ごとに収入が大きく変動する場合

確定申告書を見たところ、昨年の年収は200万円ですが、一昨年は600万円で、その前の年は550万円でした。保険会社からは、「前年度の確定申告書を使って計算するのが基本である」と言われ、年収200万円として休業損害を計算されました。昨年の確定申告書だけを使うと大幅に不利になってしまうのですが、一昨年や一昨々年の確定申告書を用いることはできないのでしょうか?

A3. 年度ごとの変動が大きい場合は事故前3〜5年分の申告書を用いることができます。

年度ごとに収入の変動がある場合は、一年分の確定申告書だけを用いて計算するとお客様にとって不利な結果となることがあります。このような場合は、事故前3年分の確定申告書を証拠として提出して、3年間の平均所得を休業損害として請求できます。

今回のご質問のケースでは、下記の計算となります。

(200万円+600万円+550万円)÷3年=450万円 (平均年間所得)

   450万円÷12ヶ月=37万5,000円 (1ヶ月分の休業損害)

収入の変動がさらに大きい場合は、3〜5年分の確定申告書をもとに平均所得を計算します。実際の裁判例でも、過去何年分の確定申告書を用いるかどうかは、毎年の収入の変動が大きい理由、前年度が低いことの理由等に応じて決定しています。単に、ここ1,2年不景気だからという理由では、事故がなくても不景気が続いていたのではないかと反論されてしまうので、直近の減収が一時的であり、事故がなければ収入が回復傾向にあったということが分かる資料を集めていくことが重要です。

Q3. ビジネスの固定経費

個人でカフェを営んでいます。事故で入院したため、1ヶ月お店を閉めなければいけませんでした。お店は閉めていたものの、その間もテナント料を払わなければならず、冷蔵庫などの光熱費もかかりました。従業員を1人雇っているので、従業員の給与も支払いました。このような経費は加害者に請求できないのでしょうか?

A3. 休んでいる間の必要経費(固定経費)は損害に含むことができます。

フリーランスの休業損害は、売り上げから経費を差し引いて計算します。ここでいう「経費」とは、「変動経費(仕入原価、原材料費など)」を意味します。変動経費については、お店を休んでいる間は支払う必要がないため、売り上げから差し引いて請求します。

これに対して、人件費やテナント料、光熱費や保険料、固定資産税、事業登録費用などは、お店を休んでいる間も支払わなければいけない費用です。事故で入院している間は、お店を閉めているため売り上げが無いにも関わらず、必ず支払わなければいけません。このため、このような固定経費は損害に含めることが認められています。

例えば、下記のようなケースでは、テナント料や従業員の給与、光熱費、リース代はお店を閉めている間も支払う必要があるため、差し引く必要がありません。よって、1ヶ月あたりの休業損害は90万円となります。

1ヶ月の売り上げ平均:180万円

原材料費:80万円

消耗品費:10万円

テナント料:20万円

従業員の給与:25万円

光熱費:5万円

リース代:10万円

1ヶ月分の休業損害:180万(売上)-80万(原材料費)-10万(消耗品費)=90万円

Q4. 過少申告している場合

税務署に過少申告をしていたため、確定申告書の所得が実際の所得よりもだいぶ低額になっています。実際には、確定申告書の金額よりも多くの所得があるのですが、実際の所得をもとに休業損害を請求できないのでしょうか?

A4. 認められる可能性はありますが、低いと考えられます。

実際の所得金額を証明できる証拠があれば、その金額を損害として請求することは可能です。

しかし、裁判所は売上だけでなく経費までの資料がきちんと揃っていないと過少申告に対して厳しく判断する傾向があり、確定申告書以上の金額を認めてもらうことは難しいと考えられます。ご自身で過小申告をしている以上、救済をしてもらえる可能性は低いと考えておいた方が良いでしょう。

Q5. 夫婦でお店を経営している場合

夫婦でパン屋を経営しています。妻は子育ての合間にお店を手伝ってくれており、私が中心となってお店を切り盛りしています。夫婦で交通事故にあったため、1ヶ月間お店を閉めました。休業損害の計算はどのようになるのでしょうか?

A5. 夫婦の寄与分を計算したうえで請求します。

ご夫婦やご家族でビジネスを営んでいる場合、それぞれの労働の寄与分を計算したうえで、休業損害を請求します。例えば、下記のようなモデルケースでは、夫の休業損害は1ヶ月35万円、妻の休業損害は1ヶ月15万円となります。

夫の貢献度:売り上げの70%

妻の貢献度:売り上げの30%

夫婦の所得合計:月額50万円

夫の休業損害:50万円×70%=35万円(1ヶ月分の休業損害)

妻の休業損害:50万円×30%=15万円(1ヶ月分の休業損害)

お悩みの方は弁護士にご相談ください

今回は、フリーランスや個人事業主の方が交通事故にあった場合に、どのような休業損害を請求できるのかについて解説しました。

フリーランスや個人事業主の休業損害は、ケースバイケースで計算方法が異なります。「自分のケースについて具体的にいくらの休業損害を受け取ることができるのかを知りたい」というお客様は、当事務所の無料相談をご利用ください。確定申告書や決算書類などを持ってきていただければ、弁護士が休業損害の概算をお伝えいたします。

当事務所では、交通事故に関するご相談は無料で受け付けております。無料相談のご予約は、お電話やお問い合わせフォームで受け付けております。「休業損害の計算がややこしくてよく分からない」というお客様は、ぜひ一度無料相談をご利用ください。