事故で体をぶつけても大きな痛みが生じていない場合、物損事故として届け出ることがあります。

事故の加害者としては、人身事故として届け出ると、免許証に違反点数が加算されたり、刑事処分を受けるおそれがあります。このため、「物損事故ですませてほしい」「人身事故にしないでほしい」とお願いします。このようにお願いされると、「確かに、人身事故にすると面倒くさそうだ」「物損事故でも良いだろう」と考えてしまいます。

しかし、物損事故として届け出ることにはいくつかのデメリットがあります。それでは、物損事故として届け出る際にはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

今回は、物損事故として届け出る際の注意点を解説したうえで、人身事故に切り替える方法と切り替えることができない場合の対処法を紹介します。

そもそも「物損事故」と「人身事故」の違いとは?

そもそも物損事故と人身事故は、何が違うのでしょうか?

両者の違いは、下記の通りです。

  • 物損事故:車両や持ち物等の物品(財産)が壊れる事故
  • 人身事故:ケガ人や死亡者が生じる事故

車両を損傷したうえに体にケガを負った場合は、「人身事故」に分類されます。この場合は、物損に関する損害(車の修理費、代車使用料等)とケガに関する損害(治療費や休業損害慰謝料逸失利益等)を区別して示談交渉を行います。

物損事故で届け出ることのデメリット

痛みが無いからといって物損事故として届け出ると、様々なデメリットがあります。物損事故として届け出る際には、下記の点に注意しましょう。

治療費を払ってもらえないケースがある。

事故の直後には痛みが無くても、数日後に頭痛やめまい、手のしびれ等に悩まされることがあります。しかし、物損事故だけと認識されて、怪我をしていることを保険会社が知らないと、保険会社が治療費を支払ってくれません。

保険会社が治療費を支払ってくれるのは、事故で怪我をしたと分かる場合のみです。(その意味では、事故で怪我をしたことが第三者の目で明らかであれば、物損事故のままにしていても保険会社が治療費を払ってくれます。)

特に、むちうち症の可能性がある人は注意が必要です。むちうち症は激しい痛みを伴わないため、交通事故が原因だと気が付きにくく、病院での治療が遅れる傾向があります。「事故からしばらく経って症状に気がついた」「事故から10日後に初めて病院に行った」という人は少なくありません。

例えば、むちうち症の症状には下記のものが挙げられます。

  • 首や肩の痛み、こり
  • 吐き気、めまい
  • 手や足のしびれ
  • 倦怠感(体が重い、だるい、疲れが取れない等)

上記の症状が生じても、「寝不足のせいだろう」「仕事のストレスのせいだろう」と考えてしまい、わざわざ病院に行かない方が多数いらっしゃいます。数日間症状が続くと、「そういえば、交通事故の日を境にして首がこるようになった」とようやく気が付き、それから病院に行き、むちうち症の診断を受けます。このときになってようやく、「交通事故でむちうち症を負った」ということが発覚します。

この段階で人身事故に切り替えることができれば、保険会社に治療費を支払ってもらうことができます。ただし、事故から時間が経ってしますと人身事故に切り替えてもらうことができなくなる場合もあります。切り替えることができたとしても、医師の診断書等の書類を揃えたうえで管轄の警察署で手続きをしなければいけないため、手間がかかります。

このようなリスクがあることから、少しでも体に痛みがある場合には、最初から人身事故として届けておくことが得策です。

軽微なケガだと思っていたのに、予想外に治療費が高くなることがある

交通事故でケガを負った被害者の中には、「これぐらいの軽いケガなら、わざわざ人身事故として報告する必要はないだろう」と考えて、物損事故として届け出ることがあります。例えば、腕や足にすり傷しか生じていないため、「病院に行かなくてもすぐに治るだろう」「病院に行ったとしても、治療費は数千円程度だろう」と考えるケースです。

しかし、いざ病院で足のすり傷を見せると、「骨折の疑いがあるので、レントゲン検査を行いましょう」と言われたり、「むちうち症かもしれません。MRI検査をしましょう」と医師に言われ、精密な検査が行われることがあります。このような場合、検査費用だけでも数万円がかかることもあり、本格的な治療が必要になった場合には、さらに数万円からの治療費がかかることもありえます。

このように、事故の直後は「軽症である」と自分で考えていても、その後、予想外に治療費が高額となる可能性があります。自費で治療をしていると、「費用がかかるのでこれ以上の治療はやめておこう」と躊躇(ちゅうちょ)してしまい、適切な治療を受けることができなくなるかもしれません。事故後に体の痛みを感じるときは、最初から人身事故として届け出たほうが、安心です。

実況見分調書が作成されない

物損事故では、「実況見分調書」が作成されません。「実況見分調書」とは、警察が事故の詳細を調査した記録です。事故の日時や現場の道路状況、現場の写真や地図、損傷車両の写真、目撃者の証言等が詳しく記載されています。

実況見分調書は、「過失割合」を決定するための重要な資料となります。過失割合とは、「事故が発生した原因がどちらにあるのか」を示す割合のことです。過失割合によって、賠償額が大きく左右されます。例えば、お客様の損害額が100万円の場合、事故の責任が全面的に相手側にあると認定されれば、相手方から100万円の賠償金が支払われます。しかし、万一お客様の過失が80%と認定されるような場合は、過失相殺として80万円が減額され、相手方から受け取る賠償金は20万円となります。

つまり、実況見分調書にどのように記載されているかによって、事故の過失割合が大きく左右され、ひいてはお客様の賠償金が変動します。

実況見分調書は、人身事故についてのみ作成されます。物損事故として届け出ると、実況見分は行われません。物損事故については、「物件事故報告書」が作成されますが、この書類には、現場付近の図面や車両の損傷箇所が簡易に記載されているにすぎません。過失割合を判断する資料としては不十分です。

このため、物損事故として届け出ると、過失割合の交渉材料が無いため、話し合いが平行線となるおそれがあります。過失割合について争いが生じる可能性がある場合には、人身事故として届け出て、きちんと捜査資料を作成してもらいましょう。

人身事故に切り替えることができない場合の対策

事故から時間が経つと、人身事故に切り替えることができなくなります。しかし、警察で手続きを拒否された場合でも、諦める必要はありません。

大事なのは、事故によって、怪我をしたという事実を明らかにすることですので、警察が物損事故として処理しているからといって、あきらめる必要はありません。

事故時の衣服が損傷していたり、当時身に着けていたものが壊れている場合、それは、体に衝撃を受けたことを示す重要な証拠になりますので、写真撮影をするなど、証拠を残しておきましょう。

また、物損事故のままでも、痛みがある場合に病院に通ったことは、事故後に体の痛みが生じたことを示す一つの証拠となります。病院の領収書などはきちんととっておきましょう。

こういった書類を提出すると、警察では物損事故として処理されたままであるものの、保険会社との示談交渉は人身事故として進めることができる場合があります。

人身事故への切換えに悩んでいるお客様は、一度、交通事故を弁護士にご相談されることもお勧めです。サリュでは弁護士による無料相談を実施しておりますのでお気軽にご利用ください。

人身事故に切り替えた後の手続き

人身事故に切り替えた場合、まず物損部分の示談交渉を行います。代車などを借りて、日に日に費用が増えているようなケースでは、早急に物損の示談をする必要があります。

ケガの治療費は、治療が終了するまで総額を確定することができませんが、車の修理費や代車使用料は、車の修理が終わった段階ですぐに金額が分かります。このため、保険会社としては、「物損の部分だけでも早く示談交渉を終わらせたい」と考えます。通常は、まだ治療をしている段階で、保険会社から物損に関する示談の提案書が送られてきます。

先に物損について示談交渉を済ませておくことにはメリットもあります。先に物損部分の示談交渉を済ませれば、それだけ早く示談金の一部を受け取ることができます。「先に修理費だけでも振り込んでほしい」と考える場合には、物損の交渉を先に済ませておきましょう。 また、過失割合など、もめている場合には、最初から交渉をつめていたほうが、解決が早くなります。

もしお客さまが、自分で修理代やレッカー代も早々に支払ってしまい、あとは加害者との金銭の清算だけの状態になっている場合には、物損解決を急ぐ必要はありません。「治療が終わるまでは物損の交渉は行いたくない」「治療が終了してから、物損と人身についてまとめて示談交渉を行いたい」とお考えになる場合は、急いで物損の示談を済ませる必要はありません。保険会社には、「治療が終わってからまた連絡してください」と伝えましょう。その場合でも、壊れたものの修理代や損傷状況が分からなくならないように、きちんと記録にとっておきましょう。

交通事故でお悩みの方はお気軽にご相談ください。

今回は、物損事故として届け出ることのデメリットを説明し、物損事故から人身事故に切り替える方法についても紹介しました。

物損事故として届け出ると、警察による実況見分が行われず、過失割合について争いが生じやすくなります。また、後日になって痛みが生じたり、予想外に治療費が高額となるおそれがあります。事故から時間が経ってしまうと、人身事故に切り替えることができなくなります。このようなデメリットがありますので、少しでもケガをしている場合や、数日後に痛みが生じるおそれがある場合で、過失がもめそうなケースでは、人身事故として届け出ておきましょう。

人身事故に切り替えることができないお客様も、諦める必要はありません。事故で怪我をしたことを証明することで、保険会社に治療費を支払ってもらうことができる可能性があります。ただし、このようなケースでは示談交渉が難航するおそれがありますので、交通事故を弁護士にご相談されることもお勧めです。

なお、物損事故のまま示談交渉を進める場合の手続きについては、「物損事故で損をしないためのポイントは」で解説しています。物損事故として処理することをお考えのお客様は、そちらを参考にしてください。

当事務所では、日頃から交通事故に力を入れて取り組んでおり、交通事故に関するご相談は無料で受け付けております。交通事故のご相談は、お問い合わせフォームからお申し込みください。お電話でのご予約も受け付けております。

物損事故から人身事故に切り替えることをお考えのお客様や、人身事故として切り替えることができずに困っているお客様は、お気軽にご相談ください。

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