交通事故により仕事を休まざるを得なくなった場合には、休業損害の賠償が受けられます。会社員(サラリーマン)の休業損害について解説します。

会社員(サラリーマン)の方が事故にあった場合、入院や通院のために会社を休まなければいけないことがあります。会社を休んだ分だけ給与が減ることを、「休業損害(きゅうぎょうそんがい)」といいます。このような損害は、損害賠償として請求できます。

それでは、会社員(サラリーマン)の方の休業損害は、どうやって計算するのでしょうか?有給を使って休んだ場合は、休業損害をもらえるのでしょうか?

会社員(サラリーマン)やOLなどの会社勤めの方のお仕事に支障が出ている場合について、どのような休業損害を受け取ることができるのかについてQ&A形式で紹介します。

休業損害の計算方法

Q
入院のために2ヶ月間会社を休んだので、その間の給与を受け取ることができませんでした。休業損害はどれぐらいもらえますか?
A

直近3ヶ月分の給与の平均をもとにして計算します。

直近3ヶ月分の給与の平均をもとにして計算します。

会社勤めの方は、事故にあう前の直近3ヶ月分の給与明細をもとに、平均給与を計算します。ここでの給与とは、手取りの金額ではなく、税金や保険料が控除される前の金額です。

例えば、5月1日に事故にあった場合は、その年の2月から4月までの給与明細を用いて計算します。

【計算式】

35万円(2月の給与)+41万円(3月の給与)+32万円(4月の給与)=108万円

108万円÷90日(3ヶ月)=1万2,000円(1日あたりの平均給与)

1万2000円(1日あたりの平均給与)×60日(休んだ日数)=72万円(休業損害)

上記の計算により、休業損害として72万円を請求できます。

有給休暇を使った場合

Q
治療のために10日間会社を休みましたが、有給休暇を使って休んだので、お給料は今までと変わりませんでした。休業損害はもらえないのでしょうか?
A

有給休暇を使って休んだ場合も、休業損害として請求できます。

有給休暇を使って休んだ場合も、休業損害として請求できます。

入院や通院のために有給休暇を使った場合、給与の額面は変わりません。

しかし、有給休暇とは、「仕事のリフレッシュのために自由な余暇を過ごすための時間」です。本来であれば、有給休暇を使って旅行に出かけたり、趣味の時間に費やすことができたはずです。事故の治療のために有給休暇を使ったということは、余暇を奪われたことを意味します。

このような理由により、裁判所の実務では、有給休暇を使って休んだ場合にも休業損害を認めています。

有給休暇の休業損害は、基本的にはQ1と同じ計算方法です。

【計算式】

35万円(2月の給与)+41万円(3月の給与)+32万円(4月の給与)=108万円

108万円÷90日=1万2,000円(1日あたりの平均給与)

1万2000円(1日あたりの平均給与)×10日(有給日数)=12万円(休業損害)

有給を使った場合は受け取る給与の金額が変わりませんが、休業損害として請求できます。忘れないように、しっかりと請求しましょう。

なお、裁判では、後述の例と同様に、日額を、休日を除く実労働日をもとに計算するものもあります。

断続的に休んだ場合

Q
治療のために5月1日から10日間入院し、その後は週に2〜3回の通院をしました。結果として、治療のために会社を休んだ期間が30日間あります。このように飛び飛びで会社を休んだ場合は、休業損害はもらえないのでしょうか?
A

休業損害として請求できます。

休業損害として請求できます。

治療のために会社を休まざるをえなくなったわけですから、連続して休んでいない場合であっても、休業損害として請求できます。

裁判所では、断続的に休んだ場合の休業損害について、下記のような方法で計算することがあります。

【計算式】

35万円(2月の給与)+41万円(3月の給与)+32万円(4月の給与)=108万円

108万円÷60日(休日を除く実労働日)=1万8,000円(1日あたりの平均給与)

1万8,000円(1日あたりの平均給与)×30日(休んだ日数)=54万円(休業損害)

1つめの例の計算とは何が違うのでしょうか?1つめの例では、1日あたりの給与を計算する際に「カレンダーの日数」で割っています。これに対して、3つめの例では「実際に会社に勤務した日数」で割っています。3つめの例の方法で計算する方が、1日当たりの給与が高くなるため、お客様にとって有利となります。

断続的に休んでいる場合には、日額を、休日を含んだカレンダーの日数で割って、実際の休業日数にかけた場合、休業損害が目減りしてしまうからです。

ただし、上記はあくまで一つの例であり、不定期の休業損害については統一的な計算方法が確立されていません。裁判所の実務では、お客様の怪我の状況や収入資料の内容に応じて、計算方法を微調整する傾向があります。

このように、断続的に会社を休んだ場合の休業損害は、裁判実務に応じて柔軟に対応することが必要です。飛び飛びで会社を休んだ方は、交通事故を弁護士にご相談されることをお薦めいたします。

異動によって収入が減った場合

Q
営業部で外回りの仕事をしていましたが、事故の怪我によって外出が困難となり、事務職に異動することになりました。営業部にいたときに比べて、給与が大幅に下がったのですが、このような場合も休業損害として請求できますか?
A

事故との因果関係があれば請求できます。

事故との因果関係があれば請求できます

交通事故によって配置転換となった場合は、その減収分も休業損害に当たります。

ただし、「交通事故が原因となって異動になった」ということをこちら側が証明する必要があります。これを「因果関係」といいます。

例えば、事故の前から異動を言い渡されていた場合は、事故が原因となって異動するわけではないので、因果関係は認められません。

これに対して、4つめの例の場合は外出が困難となったために異動になったわけですから、この点を証明することができれば、休業損害として認められます。この場合は、「営業部にいたときの給与」と「現在受け取っている給与」との差額が、休業損害となります。

なお、正当な理由の無い不当な異動(事故による症状を前提としても異動の必要がないのに会社が異動を命じるもの)であれば、勤務先の会社を相手にして争うべきです。この場合は、労使交渉や、裁判所の労働審判で争うことになります。

会社役員の休業損害

Q
現在、会社の役員をしています。固定の給与をもらっていたため、治療のために会社を休んでも給与は変わらないと思っていました。しかし、振り込まれた給与を確認すると、わずかながら事故前よりも下がっていました。これは休業損害として請求できるのでしょうか?
A

労務の対価と認められる部分は請求できます

労務の対価と認められる部分は請求できます

多くの役員の方は、労働時間に関わらず固定給を受け取っているため、休業損害が生じないことが一般的です。

しかし、会社によっては、会社役員の給与を下記2つの部分に分けて計算しています。

①会社利益の配当として支払う部分

②労働の対価として支払う部分

このうち、①は会社の売上に応じて金額が決まるため、事故の影響はありません。よって、休業損害を請求することはできません。

②は、「役員がどれだけ実働したか」ということによって金額が決まるため、治療のために会社を休むと、その分だけ給与が下がります。このように、「事故の影響で減収が生じた」ということが証明できる部分については、休業損害として請求できます。

①と②の区別は、その会社の賃金規定や就業規則をもとにして判断します。会社によっては、①と②を厳密に区別していないことがあるため、このような場合には、裁判所が「役員の職務内容、年齢、会社の収入、従業員・役員に対する給料の額、他の同業類似規模の役員報酬等」の事情を考慮して決定します。

会社員の方へ

会社勤めの方のお仕事に支障が出ている場合について、どのような休業損害を受け取ることができるのかについて解説しました。

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