交通事故でペットが怪我をしたら損害賠償の対象となるか?
大切なペットが交通事故で怪我をした場合、損害賠償の対象となるのでしょうか?また、ペットが交通事故で死亡して深い悲しみを負った場合、飼い主の慰謝料は認められるのでしょうか?
今回は、ペットが交通事故にあった場合の損害賠償請求について解説します。
ペットが事故にあった場合は「物損事故」の扱いになる
人が怪我をしたり死亡するような重大な事故のことを、「人身事故(じんしんじこ)」といいます。人が怪我をすることはなく、物が壊れた事故のことを「物損事故(ぶっそんじこ)」といいます。
飼い主にとって、ペットは大切な家族の一員ですが、法律上は「物(財産)」として扱われます。このため、ペットが怪我をした場合や、ペットが死亡した場合は、「物損事故」に分類されます。
ペットが事故に巻き込まれた場合の損害賠償
それでは、ペットが交通事故にあった場合、損害賠償の対象となるのでしょうか?
ペットが病院で治療を受けた場合
ペットが病院で治療を受けた場合は、治療費や入院費用を損害として請求できます。ただし、現在の裁判実務では、ペットの市場価値(ペットショップで売られている価格)を念頭に置いた上で、社会通念上、相当と認められる金額が上限とされています。このため、高額な治療費がかかった場合には、治療費の全額までは認められないことがあります。
たとえば、名古屋高裁平成20年9月30日判決においては、6万50000円で購入した犬について、すでに発生している治療費145万2310円を請求した事案で、当面の治療や生命の確保、維持に不可欠な範囲の11万1500円しか賠償の対象となる治療費に認められませんでした。
治療費がどこまで認められるかについては、裁判官の裁量によるところが大きいというのが現状です。
ペットが死亡した場合
ペットが交通事故で亡くなった場合は、「財産的な損害」として賠償金を請求できます。この場合、ペットの市場価値によって損害額が決まります。ペットショップやブリーダーでペットを購入した場合は、その価格や余命等を参考にして賠償額が決まります。
ペットのお葬式を行った場合は、裁判例では2万5000円の葬儀費用の賠償義務を認めたものもあります(春日井簡裁平成11年12月27日判決)。
盲導犬という性質から 「犬そのものの価値」が高く評価されたケース
交通事故でペットが亡くなった場合、時価相当額(ペットショップで売られている価格)を基本として賠償金が決まりますが、ごく例外的に、時価相当額よりも高い金額が認定されることがあります。
例えば、名古屋地裁平成22年3月5日判決では、大型トラックの運転ミスによって盲導犬が死亡した事件について、盲導犬の死亡による損害を260万円と認定しました。
通常のケースでは、損害額は「犬の市場価値」を参考にして認定されます。ペットとして人気の高い犬種であっても、賠償金の相場はおよそ数万円から数十万円にとどまります。
しかし、この裁判では、犬としては高額な賠償金を認めました。盲導犬のトレーニングには、時間も労力もかかります。裁判官は、通常の犬のようにペットショップで売買される金額を参考にするのではなく、「実際にどれぐらいの育成費用がかかったのか」を考慮したうえで、損害額を認定しました。
ペットが事故にあった場合の慰謝料
次に、「慰謝料」について考えてみましょう。
ペットが怪我をしたり死亡したことによって飼い主が深い悲しみを受けた場合は、慰謝料の対象になるのでしょうか?
そもそも「慰謝料」とは?
そもそも、「慰謝料」とはどのような制度なのでしょうか?
「慰謝料」とは、事故でつらい思いをしたり、痛い思いをしたことに対する損害賠償です。突然事故に巻き込まれた被害者の方は、大きなショックを受けます。大きな事故であるほど、被害者のショックは大きくなります。日常生活に戻った後にも、事故で激しい痛みを受けたことを思い出したり、夜寝ているときに恐い事故の夢を見ることがあります。
このように、被害者の方が事故でつらい思いをした場合に、「金銭を支払うことによって被害者のショックを少しでも軽減しよう」という制度が「慰謝料」です。
物損事故の慰謝料は原則として認められない
交通事故の慰謝料は、人身事故に関してのみ認められるのが原則です。このため、交通事故で大切な物が壊れたとしても、慰謝料は原則として認められません。
ごく稀に慰謝料が認められることもある
ただし、ペットの慰謝料が認められることがあります。全ての裁判で認められているわけではありませんが、ごく一部の裁判では、ペットの事故について慰謝料を認める判決を出しています。
ペットの慰謝料が認められた裁判例
それでは、ペットの交通事故について慰謝料が認められた裁判例とはどのようなケースなのでしょうか?慰謝料としてどれぐらいの金額が認められたのでしょうか?
名古屋高等裁判所平成20年9月30日判決では、飼い犬が事故によって重症(第2腰椎圧迫骨折に伴う後肢麻痺の傷害)を負った事案について、飼い主の慰謝料を認めました。慰謝料を認める理由として、裁判官は下記のように述べています。
”動物が不法行為により重い傷害を負ったことによ り,死亡した場合に近い精神的苦痛を飼い主が受けたときには,飼い主のかかる精神的苦痛は,主観的な感情にとどまらず,社会通念上,合理的な一般人の被る精神的な損害であるということができ,また,このような場合には,財産的損害の賠償によっては慰謝されることのできない精神的苦痛があるものと見 るべきであるから,財産的損害に対する損害賠償のほかに,慰謝料を請求することができるとするのが相当である”
名古屋高等裁判所平成20年9月30日判決
この裁判では、飼い犬の症状の重さや介護の内容等を総合的に考慮して、飼い主2名にそれぞれ20万円ずつの慰謝料を認めました。裁判官は、慰謝料の金額の算定根拠について、下記のように述べています。
”子供のいない被控訴人らは,F(犬)を我が子のように思って愛情を注いで飼育していたものであり,Fは,飼い主 である被控訴人らとの交流を通じて,家族の一員であるかのように,被控訴人らにとってかけがえのない存在になっていたものと認められる。ところが,F は,本件事故により後肢麻痺を負い,自力で排尿,排便ができず,日常的かつ 頻繁に飼い主による圧迫排尿などの手当てを要する状態に陥ったほか,膀胱炎や褥創などの症状も生じているというのである。このよ うなFの負傷の内容,程度,被控訴人らの介護の内容,程度等からすれば,被控訴人らは,Fが死亡した場合に近い精神的苦痛を受けているものといえるから,上記2の損害とは別に,慰謝料を請求することができるというべきである。 そして,慰謝料の金額については,Fの負傷の内容,程度,被控訴人らの介護の内容,程度等その他本件に現れた一切の事情を総合すると,被控訴人らそれぞれにつき,20万円ずつとするのが相当である”
名古屋高等裁判所平成20年9月30日判決
この判決では、飼い主に子供がいないためペットを子供のように可愛がっていたことや、大型犬のペットの介護が飼い主にとって重労働となっている事実等を重視したうえで、慰謝料を算出しています。
この裁判例は、裁判例の中では、高い慰謝料の金額を認めたケースです。
他にも、ペットが死亡した事案で、慰謝料を認めた裁判例は複数あります。
例えば、春日井簡裁平成11年12月27日判決では、ポメラニアンが死亡したケースで、慰謝料として、わずか3万円の賠償義務をみとめています。
慰謝料がいくら認められるかは、飼育状態や家族状態、取得額などの事情に影響されると言えます。
お悩みの方は無料相談をご利用ください
今回は、交通事故でペットが怪我をした場合に損害賠償が認められるのかについて解説しました。ペットは、法律上、「物(財産)」として扱われるため、限度はありますが、一定の治療費や葬儀費用が認められます。死亡や介護を要するような重度後遺障害事案では、飼育状態等によっては慰謝料も認められます。
ただし、慰謝料が認められたとしても極めて低い金額であり、不当とも思える結論に留まることも少なくないというのが現状です。ご自身で示談交渉を行う場合や、訴訟ではなく裁判外の和解交渉で示談をまとめる場合には、慰謝料を受け取ることが困難なことも予想されます。
当事務所は、ペットの法律問題についてメディアの取材を受けた実積があり、2019年6月13日のテレビ大阪「やさしいニュース」番組内では、動物虐待に対する厳罰化が進んだ背景について、当事務所の弁護士のコメントが紹介されました。
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